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COLUMN

歯ブラシで歯が削れる?|摩耗を防ぐには“やさしいブラシ選び”と磨き方の見直しがカギ

毎日しっかり歯を磨いているのに、
前歯の根元が削れてきた気がする…」「冷たいものがしみるようになった」と感じたことはありませんか?もしかすると、その原因は“歯ブラシの使い方”にあるかもしれません。歯の本体である象牙質が、歯ブラシの力で削れてしまっている可能性があります。

当院で診療している中でも、
「強く磨かないでください」とお願いしない日はないほど、過度なブラッシングによるダメージは日常的に見られます。特に、歯周病治療をきちんと終えた患者様ほど、再発を防ごうと「一生懸命に磨きすぎてしまう」傾向が強く、
その結果として、歯の表面が削れて知覚過敏や歯肉退縮につながってしまうケースも少なくありません。

こうしたトラブルを防ぐには、次の3つがとても重要です。

  1. 歯ブラシの持ち方(ペングリップ)
  2. 毛先がやわらかく、圧を分散できる歯ブラシの選択
  3. 研磨剤の入っていない、低刺激の歯磨き粉を使うこと

この記事では、“がんばって磨く”から“やさしく守る”ケアへの切り替え方を、エビデンスや臨床例とともに解説していきます。

強いブラッシングは歯を削る|テレビドラマのような磨き方に注意!

歯の表面は「エナメル質」という非常に硬い構造で守られていますが、繰り返し強く磨くことでその下にある象牙質が露出し、歯が削れてしまうことがあります。

テレビドラマやCMでは、俳優がゴシゴシ磨くシーンがよくありますが、現実ではNGな磨き方です。
特にパームグリップ(グー握り)で力任せに磨く方は要注意です。
繊細な力加減ができる“ペングリップ(鉛筆持ち)”でのブラッシングをおすすめします。

ペンのように持つことで力を制限し、歯の削れを防ぎます。

やわらかい毛先の歯ブラシを|メンテナンス時の交換が理想的

歯が削れるのを防ぐうえで磨き方と併せて大切なのが、歯ブラシの硬さです。
特に、象牙質が露出している方や歯ぐきが下がっている方にとって、市販の「やわらかめ」歯ブラシでさえ硬すぎます。当院でおすすめしているのが、スイス製の歯ブラシ「クラプロックス(Curaprox)」です。かなり柔らかいですので、一度使用して適正な硬さがどの程度のものか体感していただければと思います。

超極細毛で圧力を分散
毛の本数が多く、効果的に磨ける
象牙質や歯肉にやさしく、摩耗を防ぐ

さらに、クラプロックスは約3ヶ月使用可能。3ヶ月ごとのメンテナンス時に購入すれば、常に最適な清掃状態を維持できます。

「磨き残し」が気になるときこそフロス・歯間ブラシを

歯ブラシのみで除去できるプラークは全体の約60%前後と言われており、完全に取り切ることは困難です。

「磨き残しがあるかも」と感じたときに、ゴシゴシ磨くのは逆効果。
代わりにフロスや歯間ブラシを使うことで、歯と歯ぐきに負担をかけずに汚れを除去できます。

歯磨き粉にも注意|研磨剤の落とし穴

歯を削る原因は歯ブラシだけでなく、歯磨き粉に含まれる研磨剤も関係しています。
米国では、RDA(Relative Dentin Abrasivity:象牙質研磨性)という指標があり、歯磨き粉の研磨性を数値化しています。

アメリカ歯科医師会(ADA)では、RDA 250を上限としています。RDA70以下は低研磨として知覚過敏や歯肉退縮のある方に推奨されています。一方、「ホワイトニング用」「ステイン除去強力」と書かれた歯磨き粉は、RDAが100〜250を超えるものもあり、摩耗リスクが高いことがあります。アメリカ製品であればRDAを参考にすることで、削れにくい歯磨き粉を選ぶことができます。 しかし、日本国内ではこのRDA値の表示義務がなく、多くの製品に情報がありません。

RDAの表示義務のある米国が先進国なのか、日本が後進国なのか分かりませんが、自衛策としては研磨剤の含まれていない歯磨き粉を使うことです。代表的な研磨剤は炭酸カルシウムです。これが含まれていないものは少なく、何も考えずに選んでしまうと歯が削れてしまいます。商品名はあえて挙げませんが、低価格の名前の知れている商品にはほとんど含まれています

無水ケイ酸も歯磨き粉に含まれる研磨剤ですが、炭酸カルシウムのように角ばっておらず、研磨力は比較的マイルドです。ただし硬い歯ブラシを使うと、こちらでも削れてしまうでしょう。

とはいっても、歯を白くしたい

「歯を白くしたい」という気持ちは自然なことです。
ただし、エナメル質の薄い方が研磨剤で歯を磨くと、かえって象牙質が透けて黄色っぽく見えることがあります。ホワイトニング歯磨き粉には、着色を除去するために高い研磨性を持つ研磨剤が含まれていることが多く、歯が削れる危険性が高いです。

歯を白くしたい方には、着色除去にはエアフロー、根本的な解決には数年に一度のホワイトニングをおすすめします。プロが対処するほうが、研磨剤入りの危険で強力な歯磨き粉を使いつづけるよりも、合理的な選択だと思います。

着色をとるエアフロー

エアフローとは、超微粒子のパウダーと水、空気をジェット噴射することで、歯の表面や歯と歯ぐきの境目、浅い歯周ポケットの中までクリーニングできる機器です。エナメル質や象牙質を物理的に削ることはなく、歯に優しい清掃が可能です

コーヒー・紅茶・ワイン・タバコなどによる着色汚れ(ステイン)や、歯垢(プラーク)を削らずに効率よく除去でき、従来のクリーニングよりも歯への負担が少ないのが大きな特徴です。

ホワイトニング

歯科医院で行うホワイトニングはサロンに比べ効果が高く、短期間で効果が出るのが特徴です。数年に一度、期間を決めて行なってみてはいかがでしょうか。歯の根本的な色を明るくしたい場合には、歯科医院でのホワイトニングが有効です。
サロンの薬剤と異なり、医療機関のホワイトニング剤には過酸化水素水過酸化尿素が含まれているので、確かな漂白効果が認められています数年に一度、期間を決めてホワイトニングを受けることで、歯の美しさを安全かつ効率的に維持できます。

どうしても歯が白くなる歯磨き粉が使いたい

それでも研磨剤入りの歯磨き粉を使いたい方には、次のような使い分けをおすすめします。

  • 週1〜2回使用
  • それ以外は研磨剤フリー(清掃剤無配合)の歯磨き粉で毎日ケア

明確なガイドラインはありませんが、週1〜2回に制限し、意識して使うことで、漫然と力を込めて磨くことを防げると考えています。ステインが気になる方には、研磨剤が比較的マイルドな「ルシェロ歯みがきペーストホワイト」をおすすめしています。知覚過敏や歯肉退縮のある方には特に適した選択肢です。

もしも削れてしまったら|歯肉移植による歯肉の回復

強すぎるブラッシングや咬合圧の影響で、歯肉が退縮して根面が露出することがあります。このような場合、審美性の回復と根面保護のために「根面被覆術」が必要になることもあります。

当院では、実際に「歯ぐきが下がって根っこが見える」とお悩みの患者様に対し、結合組織移植術(CTG)やトンネリング法を組み合わせた根面被覆術を行い、自然な見た目と機能を回復させた症例があります。歯周病専門医の学会では、非常に進歩が早い分野です。

関連する症例紹介
歯ぐきが下がって根っこが見える|根面被覆で審美的に改善

正しいケアで“削れない”歯を守りましょう

歯は一度削れてしまうと、自然には戻りません。

毎日のケアで大切なのは、

  • やさしくペングリップで磨く
  • 補助清掃具(フロス・歯間ブラシ)を併用する
  • 3ヶ月ごとに歯ブラシを交換する
  • 日常使いには研磨剤の入っていない歯磨き粉を選ぶ

「がんばって磨く」より、「やさしく、正しく磨く」ことが大切です。
気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。

文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医

参考文献

Hefferren, J. J. (1976). A laboratory method for assessment of dentifrice abrasivity. Journal of Dental Research, 55(4), 563–573.

American Dental Association. (2020). Toothpastes – ADA

Rath, S. K., Sharma, V., Pratap, C. B., & Chaturvedi, T. P. (2016). Abrasivity of dentrifices: An update. SRM Journal of Research in Dental Sciences7(2), 96-100.

Subramanian, S., Appukuttan, D., Tadepalli, A., Gnana, P. P. S., & Victor, D. J. (2017). The role of abrasives in dentifrices. Journal of Pharmaceutical Sciences and Research9(2), 221.

Dobler L, Hamza B, Attin T, Wegehaupt FJ. Abrasive Enamel and Dentin Wear Resulting from Brushing with Toothpastes with Highly Discrepant Relative Enamel Abrasivity (REA) and Relative Dentin Abrasivity (RDA) Values. Oral Health Prev Dent. 2023 Feb 2;21:41-48.

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