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COLUMN

「切らないインプラント治療」は本当に良いのか?|最小限の切開で得られるメリットとリスク

インプラント治療において患者様の一番の心配は痛くないか?ということだと思います。上の画像のように歯を抜いた後に骨が十分に残っていれば、確かに切らずにインプラント手術は可能です。

「切らないインプラント治療」という言葉を見かける機会が増えているためか、患者様から質問をうけることがあります。これはフラップレス治療といわれ、歯肉をめくらずにインプラントを埋入できるという術式です。確かに、切開を行わないことで術後の腫れや痛みが少なくなることはあります。しかし、すべてのケースにおいて安全とは限りません。とくに骨の状態に問題がある部位に無理に埋入すると、インプラントの長期的な安定が損なわれる可能性があります。

フラップレスは昔流行した手術法

実はフラップレス治療は、2000年代に流行した術式です。私が中学生だった頃、院長である父が自宅で「フラップレス手術」の専門書を読んでいたのを覚えています。当時は「患者さんに優しいインプラント」として注目されていたようです。

しかし現在、海外学会の発表では、ほとんど見たことないように思います。それは、現代のインプラント治療に必要な診査・処置が行いづらいからです。

フラップレスの欠点

インプラントが骨に入りきったことが確認できない

インプラントを設置する部位の骨は平坦であるとは限らないため、インプラントの一部が完全に骨に覆われていないということが起こりえます。視野が限られるフラップレス手術では、術中に骨内にインプラントが入りきったか確認が難しいと考えられます。術後1年や2年では差は出ないでしょうか、10年単位で考えると生存率に差が出ると考えられます。

骨の表面に残った補填材を除去できない

骨造成(GBR)を行った部位では、骨になりきっていない補填材が0.5~1mm程度残ることがあります。これはCTでは判別しづらく、実際に開けてみないと分からないこともあります。

残留補填材が感染リスクになるため、当院では視野を確保し除去、深度や方向を再評価してから埋入します。

しかしフラップレスではそれができません。視野が限られ、異物が残るリスクがあるのです。

切開量は実際はあまり変わらない

「切らない手術」という言葉から大きな差があるように思われがちですが、フラップレス最小限切開の侵襲差は小さいというのが治療していて感じる実感です。切る場所と範囲を工夫すれば、痛みや腫れは最小限に抑えられます

むしろ、確実な診査・処置ができる分、最小限の切開のほうが予後も安定しやすいと考えています。

歯肉を保存できない

フラップレス手術ではインプラントに合わせて歯肉をくり抜くため、その部分の歯肉が失われてしまいます。一方、切開を伴う手術では歯肉の再配置が可能です。

とくに頬側歯肉の厚みは、インプラント周囲の骨の安定に直結します。歯肉のボリューム不足は骨吸収リスクになります。つまり、フラップレスは大切な歯肉を失ってしまう可能性がある「もったいない」手術とも言えます。

フラップレス適応症だが、あえて小さく切開した症例

フラップレスを避けた例を示します。この場合は歯肉も十分ありフラップレスの適応です。しかし、歯肉を保存した切開を行ったところ、骨の表面に骨の材料が一部残留していました。5分程度の手間ですが、しっかり除去し将来のインプラントの感染の可能性を減らしました。

フラップレスのように歯肉を切り取るのではなく、歯肉を保存して歯肉を開いています。保存した厚い歯肉はインプラント周囲の骨の吸収を抑えます。もしフラップレス治療で行なった場合には、円形に歯肉を切り取りますので、この術式の切開線の長さはフラップレスと変わらないと考えられます。またフラップレス手術では歯肉は失われてしまい、薄い歯肉にインプラントが囲まれることになります。

骨にインプラントを設置するだけではなく、歯肉にも気を使って施術を行うことで、1. 自然な仕上がりと、2. 長期的な安定 を目指しています。

まとめ:フラップレス治療は適応症を見極めて行うべき

フラップレス治療は魅力的に感じられるかもしれませんが、適応症は限られています

骨の量・質・形態、清掃性、歯肉の保存などを総合的に判断し、最適な手術法を選ぶことが大切です。

当院では一人ひとりに合った治療計画を立て、最小限の負担で最大限の結果を目指しています。

文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医

参考文献

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