COLUMN

アメリカと日本の歯科治療の違い|予防重視の文化が生む健康な口腔環境

「アメリカの歯科治療は高い」という話はよく耳にします。確かに自由診療が基本のアメリカでは、治療費は日本より高額です。しかし私がアメリカで診療して感じたのは、「高いなりの理由がある」ということでした。

大学病院でも患者さんの口腔内はきれい

私はアメリカ・インディアナ州の大学院で歯周病とインプラント治療を専門に学びました。そこでは学生が診療に関わることもありますが、それでも患者さんの口腔内は非常にきれいでした。歯石が少なく、歯ぐきの状態も良好で、日本との違いを強く感じました。

健康に対する意識の差

アメリカと日本では歯科医院を受診する目的そのものが異なります。ADA アメリカ歯科医師学会 の2022年調査では、成人の約45%が「定期検診」約37%が「歯周病予防」を目的に受診しており、治療目的はわずか12%にとどまります。つまりアメリカでは約8割が「予防目的」で歯科医院に通っているのです。

一方日本では、厚生省の調査(1999年)によると59.1%が「虫歯の治療」を主な目的とし、「健診や指導」目的はわずか6%という結果でした。「痛くなったら行く」という意識が依然として主流なのが現状です。

アメリカの治療費の高さも予防意識を高める一因かもしれませんが、私が現地で患者さんと話して感じたのは、「歯を大切にしたい」という純粋な思いの強さでした。統計には現れにくいですが、診療を通じて肌で感じた意識の違いです。

治療のしやすさにも違いがある

アメリカではいわゆるセラミック(ジルコニア・二ケイ酸リチウム)が主流で、型取りも時間を書けて行うため詰め物や被せ物の精度が高く、汚れが付着しにくいので歯周病の再発を起こしにくい構造になっています。さらに矯正治療の普及率が高く、歯並びが整っているため、補綴(被せ物治療)や歯周病の治療がしやすい環境が整っています。

私が担当した70歳の患者さんは、「リタイアしてやりたかった矯正をやる」と話していました。年齢に関係なく、自分の健康に投資する文化には感銘を受けました。

日本でも、もっと前向きな歯科受診を

もちろん、これはあくまで「傾向」の話です。日本でも予防意識の高い患者さんは多くいらっしゃいます。ただ、「症状が出てから通う」のではなく、「将来のために今から通う」という意識が広がれば、日本の歯の健康も大きく変わるはずです。

米国で私が学んだProactive(プロアクティブ)という言葉があります。これは、以前アメリカ人の友人が就職面接で使っていたのをきっかけに知った言葉です。Pro(前に)+Active(行動)からなるこの言葉は、受け身ではなく「自分から積極的に動き、状況を主体的にコントロールする」という意味を持ちます。歯科受診のスタンスもまさにこの「Proactive」であるべきだと感じています。

当院でも、若い方ほど積極的に治療や予防を希望される傾向があり、以前よりも「自分の歯を守りたい」という意識の高まりを実感しています。そうした患者さんの気持ちにも応えられるよう、当院では治療だけでなく、予防とメンテナンスにも力を入れています。歯を長く健康に保ちたいとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医

参考文献

  1. American Dental Association, Health Policy Institute. (2024). National trends in dental care use, dental insurance coverage, and cost barriers. Retrieved from https://www.ada.org/resources/research/health-policy-institute/dental-care-market
  2. 厚生省. (1999). 保健福祉動向調査. https://www.chiyoda1st.com/image/shikairyo.pdf
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