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AIはどこまで歯科医療に関われる?|治療現場から見た現実とこれから

当院では最近、DTX Studio™ ClinicというAI搭載の診断サポートソフトを導入しました。レントゲン画像から虫歯や歯周病の兆候を自動的に見つけて、診断を助けてくれる便利なツールです。
歯科の診断は、「あるべき場所に黒い影があるかどうか」を見極めるという比較的シンプルな構造に基づいており、異常の有無を見つける点ではAIと相性のよい分野といえます。
とはいえ、「AI・ロボットが歯科医の仕事を全部やってくれる時代が来るのか?」というと、それはまだまだ先の話になりそうです。患者様から「歯科ではAIは使わないのか?」という質問を受けましたので、記事を書いてみました。
AIはどこまで歯科に活用できる?
ここ数年、「AIが人の仕事をどんどん代わってくれるようになる」と言われてきましたが、最近は少し落ち着いた見方も増えてきました。「なんでもAIで済む」というのではなく、「AIが得意なこと」と「人間にしかできないこと」をどう使い分けるかが、現実的なポイントだと思います。
もちろん、歯科の現場でも、AI・ロボットを導入しようという動きがあります。
硬い組織とやわらかい組織では、AIの得意・不得意が違う
歯科で扱う組織は、大きく2つに分けられます。
- 硬組織:歯や顎の骨など、硬くて形が変わらないもの
- 軟組織:歯ぐきや舌、頬の内側など、柔らかくて動くもの
このうち、インプラント手術のように硬い組織を扱う治療では、AIやロボットが活躍しやすいと言われています。
CT画像などで骨の形を正確に読み取れば、器具の位置も計画通りに動かせるため、自動化がしやすいのです。実際、海外ではロボットがインプラントを埋め込むシステムも一部導入されています。
やわらかい組織は、AIにとって難しい
AIは「正解データ(=答え合わせできる情報)」をたくさん学習して成長していく技術です。
硬い組織の情報はレントゲンやCTで明確に見えるため、AIにとっては扱いやすいデータになります。
軟組織は人によって動きや形が違い、そのときどきで変わってしまうため、「こうすれば正しい」という基準をつくることが難しいのです。
たとえば、治療中に唇や頬を引っ張っても急に動いたり、舌が予想外の動きをしたり、唾液で器具が滑ったりするなど、予測がつかない場面も少なくありません。こうしたときに対応するには、歯科医師の手の感覚や小さな違和感に気づく力がとても重要になります。
すべてをAIに任せるのは、まだ少し先
画像診断や記録補助など、AIが得意な場面は今後も増えていくと思います。一部の手術はAI搭載のロボットによる補助が入るでしょう。
ただし、患者さんごとに異なる動きや、瞬時の対応が求められる現場では、やはり人の力が欠かせないというのが現状です。
これからの歯科医療は、AIの強みを活かせる部分を探して活用していく。他業種と同じく、そういった落とし所になるのではないでしょうか。
まとめ
- 硬い組織(歯や骨)を扱う処置では、AIやロボットの活用が考えられます
- やわらかい組織(歯ぐきや舌など)を扱う処置では、人間の臨機応変な対応がまだまだ必要です
- AI・ロボットの導入は一部の治療に限られると予想される。
文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医
インプラント手術を補助するロボット シンガポールの学会で触りましたが日本への導入はまだです
