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親知らずは抜くべき?―アメリカ歯周病専門医の視点で解説します

「親知らずは必ずしも抜かなくていい」―そう思っている方も多いかもしれません。しかし、特に下あごの親知らず(下顎智歯)については、残すことによるデメリットが非常に多いのが現実です。日本では親知らずがそのまま残っている方が非常に多く、下顎第二大臼歯(手前の奥歯)の後ろ側に歯周病が起こってしまうケースが後を絶ちません。骨が溶けたあとに親知らずを抜いたとしても、骨の欠損が残り、骨を足す外科的処置が必要になることも少なくありません。

智歯周囲炎とは?

智歯周囲炎は、親知らずの周囲に細菌がたまって炎症を起こす状態です。腫れや痛みが出るだけでなく、まれに親知らずが手前の第二大臼歯に食い込んで、その歯が吸収されて壊れてしまうこともあります。

高齢になっても炎症は残ります。大学病院時代、90歳を超えて入院された患者さんで、親知らずの炎症がきっかけで重症化したケースもありました。高齢になってから発症すると、治療の負担が大きく、非常に厄介です。まさに「爆弾を抱えて生きている」ようなものです。

親知らずの炎症により第二大臼歯周囲で骨吸収が進行しているレントゲン画像

親知らずが第二大臼歯に悪影響を与えてる例
1. 親知らずの炎症による根の先端付近まで届く骨破壊
2. 物理的に磨けない部分へ貯まった、プラークによる虫歯

歯周病、虫歯ともに治療が難しく、第二大臼歯は抜歯に大きく近づいてしまっています。

親知らずは20代前半での抜歯がおすすめ

歯周病治療や矯正治療の際には、親知らずは多くのケースで抜歯が推奨されます。抜歯のタイミングは骨が柔らかい10代後半〜20代前半がおすすめです。

歯科治療のトップランナーである米国では、10代後半〜20代前半に抜くことが一般化しているようです。アメリカではそもそも親知らずが残っている患者をほとんど見かけません。私自身、米国で治療していた際に、親知らずがある方を診たことはほぼありませんでした。これは矯正治療が一般的なこと、予防の考え方が浸透しているからでしょう。

「まっすぐに生えていて問題ない」と思われがちな親知らずでも、じつは見えないリスクがあります。それは「角化歯肉の不足」です。

角化歯肉の少ない親知らずは、虫歯や炎症の温床になることも

しっかり噛めているように見える親知らずでも、周囲に角化歯肉(堅くて安定した歯ぐき)が少ないと、歯ブラシが当たらず、プラークがたまりやすくなります。実際、角化歯肉が2mm未満だとブラッシングが困難になり、炎症を起こしやすいことが知られています。

これは、Lang & Löe による有名な研究でも示されており、口腔衛生を維持するには最低2mmの角化歯肉が必要とされています。そのため、たとえ親知らずが一見問題なさそうに見えても、将来的に虫歯や歯周病で抜歯になるケースが多いです。

移植目的で残すのはおすすめしません

中には、将来の移植のために親知らずを残す方もいます。しかし、移植した親知らずは神経を抜く必要があるため、破折リスクが高く、一生使えるとは限りません。特に奥歯は噛む力が集中する部位であり、破折の好発部位でもあります。

親知らずを残しておくことによる不利益があまりにも多く、「いつか使うかも」という期待だけで残すのは現実的ではありません

まとめ|早めの抜歯を強くおすすめします

親知らずは、いつ爆発するかわからない「口の中の爆弾」のような存在です。特に下あごの親知らずは、周囲の歯を守るためにも、早めの抜歯が強く推奨されます。放置することで、痛みだけでなく歯周病や骨の吸収、さらには入院が必要なレベルの炎症につながることもあります。将来の健康のために、若いうちの抜歯をぜひご検討ください

文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医

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