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歯周病治療で禁煙・減煙をおすすめする理由

歯が揺れたり、歯肉から膿が出るため受診される患者さまには禁煙をお願いすることがあります。歯科でタバコが問題になることに驚かれる方がいらっしゃいますが、これはタバコが歯周病を悪化させてしまうことが大きいです。

タバコと口の中の病気

喫煙は口の中に煙が充満しますので、口の中は強い影響をうけます。タバコといえば肺がんのリスクになることがよく知られていますが、舌がんなど口腔がんも発生しやすくなります。また傷の治りが悪くなることが分かっており、抜歯後に治癒不全が起き痛みが続きやすくなります。

これにくわえて、タバコを常用されている方は歯周病が進みやすくなります。1 また1日20本以上の喫煙でインプラントの成功率も13.1倍下がります。2

私の専門は歯周病・インプラントですので、今回はタバコと歯周病・インプラントについてご説明させていただいます。

タバコと歯周病・インプラント

タバコと歯周病

歯周病歯の周りの組織が溶けていく病気で、細菌と体の免疫によって引き起こされます。歯周病のメカニズムは、細菌と免疫の相互反応によって引き起こされます。細菌が砂糖を原料にし、毒素を出すプラークと呼ばれる汚れをつくり、それに対して体が免疫反応を起こす結果、歯の周りの組織が溶けていきます この病気の恐ろしいところは痛みがほぼ無いことです。気が付かないうちに歯の支えとなる組織が溶けていく結果、最終的は歯が揺れて抜けていきます。

歯周病は抜歯の一番の原因とされていますが、3 タバコはさらに歯周病のために起こる抜歯を増やすとされており、喫煙者は奥歯が抜歯される確率が4.18倍跳ね上がるとされています。4

タバコは歯周病の進行を助けてしまうだけでなく、治療の成功率も下げてしまいます。歯周病で失われた骨を外科治療で回復させる治療が存在しますが、タバコの作用で組織の治りが邪魔されてしまい、手術した傷口が開いてしまうリスクが高くなります。また手術によって出来る骨の量も減ることが分かっています。5

タバコが歯周病を悪化させる詳しい仕組み

タバコと歯周病の関係に関しては、とても多くの論文が出されており、タバコが歯周病を悪化させてしまう仕組みがわかっています。専門的な話にはなりますが、おおきく2つの作用が関与しています。

  1. タバコにふくまれるニコチンの作用で口の中の血管が細くなる。酸素が減ることで、酸素の嫌いな歯周病原菌が増えてしまう。
  2. 体の免疫が喫煙によって悪影響を受けてしまい、歯の周囲組織をより破壊する方向に変化する。

タバコの煙細菌に優しい環境を作ってしまい、それに対する炎症反応が強く出やすい状態を作ってしまいます。詳しい仕組みまで分かっているので、悪影響がらあるかもしれない、というぼんやりした話ではなく、喫煙は確実に歯周病を悪化させます。

タバコとインプラント治療

同じような原理で喫煙者はインプラントの定着率、長期の安定率も下がります。 歯科用インプラントがアゴの骨に設置された後に約2ヶ月〜3ヶ月の治癒期間をおくことで、インプラントと骨が結合し、強力なかみ合わせの力に耐えられるようになります。この間にタバコの煙が口の中に充満してしまうと、定着に失敗するリスクが高くなります。タバコの使用で、インプラントの定着が失敗する確率は1.59倍上がるとされています。6

治癒期間を経てインプラントが無事定着したとしても、インプラントが上手く磨けないと細菌性プラークがたまり、インプラント周囲縁という歯周病と同じような細菌感染が起こります。インプラント周囲炎も喫煙者は罹患率が高くなります。インプラント設置後、8〜12年間追跡した研究があり、タバコを使用しない人のインプラント周囲炎罹患率が6%であったのに対して、喫煙者では18%のインプラントがインプラント周囲炎を発症しました。タバコを使用するとインプラント周囲炎の罹患率3倍に跳ね上がるあると言えます。7

電子タバコと歯周病

近年、従来のタバコから電子タバコへ切り替える方が増えています。

歯周病と電子タバコの関係ですが、従来のタバコほど研究が進んでいない。市場にでて10年程度であること、タバコと電子タバコを両方使っている人が多いことからデータが取りにくく、従来のタバコほど研究が難しいようです。しかしながら電子タバコを使用すると、ニコチンを放出し煙が口の中に充満することから、従来のタバコとほぼ同じ仕組みで歯周病を進めてしまうのではないかと言われています。8

一方、虫歯との関係は強い傾向があるようで、電子タバコ使用者は虫歯が多いとされています。これは液体に含まれる糖分と関係があるようです。

歯科医師としては、電子タバコもやめてしまうことをおすすめいたします。

まとめ

タバコは歯周病を悪化させ、治療の成功率も下さげてしまいます。ですので、歯周病治療が必要な方には禁煙、もしくは本数を減らすことを提案させていただいています。

文責:藤井貴寛(ふじい たかひろ)
Diplomate of the American Board of Periodontology
アメリカ歯周病・インプラント外科 ボード認定専門医

参考文献

  1. Genco RJ, Borgnakke WS. Risk factors for periodontal disease: Risk factors for periodontal diseases. Periodontology 2000. 2013 Jun;62(1):59–94.
  2. Naseri R, Yaghini J, Feizi A. Levels of smoking and dental implants failure: A systematic review and meta‐analysis. J Clinic Periodontology. 2020 Apr;47(4):518–28.
  3. Hirschfeld L, Wasserman B. A Long-Term Survey of Tooth Loss in 600 Treated Periodontal Patients. J Periodontol. 1978;14.
  4. Miller PD, McEntire ML, Marlow NM, Gellin RG. An Evidenced-Based Scoring Index to Determine the Periodontal Prognosis on Molars. Journal of Periodontology. 2014 Feb;85(2):214–25.
  5. Bowers GM, Schallhorn RG, McClain PK, Morrison GM, Morgan R, Reynolds MA. Factors Influencing the Outcome of Regenerative Therapy in Mandibular Class II Furcations: Part I. Journal of Periodontology. 2003 Sep;74(9):1255–68.
  6. Fan, Y. Y., Li, S., Cai, Y. J., Wei, T., & Ye, P. (2024). Smoking in relation to early dental implant failure: A systematic review and meta-analysis. Journal of Dentistry, 105396.
  7. Karoussis IK, Salvi GE, Heitz-Mayfield LJ, Bragger U, Hammerle CH, Lang NP. Long-term implant prognosis in patients with and without a history of chronic periodontitis: a 10-year prospective cohort study of the ITI Dental Implant System. Clin Oral Implants Res. 2003;14:329–339.
  8. Tattar R, Jackson J, Holliday R. The impact of e-cigarette use on periodontal health: a systematic review and meta-analysis. Evid Based Dent [Internet]. 2025 Feb 13
  9. Gaur S, Agnihotri R. The Role of Electronic Cigarettes in Dental Caries: A Scoping Review. Dalal V, editor. Scientifica. 2023 Aug 30;2023:1–9.

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